
中学で初めて英語を学んでから英語が大好きになった私。大学時代に英語劇に出会ってからは、すぐに英語がしゃべれるようになりました。
社会人になってからも英会話力を保てるようにしてきたので、30代後半にしてNew Yorkの大学院に留学するにあたって、英話なら大丈夫と自信をもっていました。
しかし実際、New Yorkに住んでみると、”あれっ、私の英語、通じてないかも”と思う場面によく出くわしました。
そういうときの英語って決して難しい単語ではなく、むしろ簡単な単語が通じなかったりするんです。それっていったいどういうことなんでしょうか?
今回は”later”という中学で学ぶ簡単な英単語がまきおこした事件のことをお話しします。
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laterを「あとで」と訳して間違えたーなぜ?
ニューヨークで知り合ったアメリカ人と連絡先を交換したあと彼女は去り際に、”I’ll call you later.”と言って去っていきました。
「あとで電話する」ってことです。
だから急いで家に帰って待っていたのに、なかなか電話がかかって来ないのですよ。 どうして? 今日中に電話かけてこなければおかしいでしょ?
「今日中」だと決めつけてしまったことから誤解が生じました。
laterという英語は、「それが話された時点からあとの近い将来のこと」。だから、今すぐあとでも、翌日でも、数日後でも、数週間後でもlaterなのです。
だから具体的に「いつ」なのかは、laterの前後にある単語や、話された時刻、場所、状況、相手などのいろいろな要素を総合して、判断されるのです。
そもそも日本語の「あとで」にしたって、どのくらい時間がたった「あとで」かは特定されていませんよね。
つまり、英語の”later”も、日本語の「あとで」も「どのくらいの時間が経過したあと」なのか特定されていないので、その時間的な解釈が異なっているということです。
私は”later”の翻訳を間違っていませんでしたが、この時間的な解釈のところで間違ったのでした。では、具体的に私にどんなことが起こったのかお話ししますね。
英語の解釈を間違ったためにひとがらまで誤解してしまった
ニューヨークでは毎日曜日にキリスト教の教会に通っていたので、アメリカ人のお友達がたくさんできました。
そんなある日、アメリカで生まれ育ったChainese American(中国系アメリカ人)の長い黒髪が美しい、素敵な女性が私に声をかけてくれました。
互いの自己紹介から始まって、New Yorkでの暮らしのことなどいろいろとお話ししていると彼女は、
“Oh, it’s time. I must go now. But I want to talk with you more.”
「あら、こんな時間だわ。わたし、もう行かなくちゃ。でも、もっとお話ししたいわ。」
と言ってくれて、互いの電話番号を交換しました。
注釈:その当時は日本ではポケベルの全盛時代、アメリカでも携帯電話が販売されてましたが、高価なのでほとんど普及しておらず、連絡を取り合うのはもっぱら家電でした。
そして、別れ際に彼女はこう言ったのです。
“I’ll call you later.”
「あとで電話するね。」
それで私は急いで自分のアパートに帰りました。だって、向こうから電話すると言ってくれたのに、こっちが留守だったら相手に対して失礼になると思ったからです。
そして電話機の前に張り付くようにして、今か今かと電話を待ちました。
しかし、夜の8時になっても、9時を超えても電話が鳴らないのです。
「もう10時近くなのに電話が鳴らないのは変だ。もしかしたら彼女は電話をかけるのを忘れているかもしれないな。日本では遅い時間に電話をかけるのは失礼にあたるけど、彼女の方から『あとで電話するね』って言ってっくれたことだから、こっちから電話しても失礼じゃないだろう。」と、彼女に電話をかけてみました。
でも、電話に応答したのは彼女の妹さんで、彼女はまだ帰宅してないと言うのです。
「あれっ、彼女の方から『あとで電話するね』って約束したのに、何でまだ帰宅してないんだろう?」と相手の態度にちょっとばかり「不誠実さ」を感じました。
でもとりあえず妹さんに、「私が電話を待っています」という伝言を残したところ、それからたぶん1時間後くらいにやっと電話が鳴りました。彼女からでした。
“Hello, what’s up?”
「もしもし、どうしたの?」
と、私が「電話をかけてきたことがとても意外だ」というような反応なのです。その反応には私の方がびっくりです。
「あとで電話するね」って言っておきながら、今は「何か用事でもあるの?」というようなニュアンスだなあと思いながら、私は言いました。
“I was waiting for your call all this evening, because you said ‘I will call you later.'”
「あなたが『あとで電話する』って言ってたから今晩ずっと待っていたのよ。」
私が言ったことに対し彼女は依然として理解できていない様子でこう言いました。
“Oh? Oh, yes… Thank you for calling anyway.”
「あっ、あら、そう・・・とにかくお電話ありがとう。」
その後はお互いに何を話したのか覚えていませんが、遅い時間だったので、釈然としないまま早々に話を切り上げたように思います。
英語の”later”を「あとで」と訳すことは間違いではないのに、何故ふたりの間に誤解が生じたのでしょうか?
それは、英語の”later”と日本語の「あとで」の時間的な感覚が一致していないことが原因でした。
彼女は何かの用事のために出かけていく前に、”I’ll call you later.”と言ったので、用事が終わった『あとで』、今日中に電話をかけるつもりだろうと考えたのです。
一方、”later”という英語は、「それが話された時点からあとの近い将来のこと」です。だから必ずしも今日中でなければいけないわけじゃないのです。
そう分かったのは、ニューヨークで暮らしながら、いろんな人と話をしながら、また、他の人たちの会話を聞いているうちに、じわじわとわかってきたのでした。
彼女は「またいつか電話をするね」というつもりだったのに、私は”later”の日本語訳「あとで」にとらわれてしまったので、すぐ電話をかけてくれなかった彼女は「不忠実でいいかげんな性格かもしれない」って思ってしまったのでした。
英語でコミュニケーションするときには翻訳しない方がいいかも
外国語をぴっつたりと日本語に翻訳することはたぶん不可能なのかと私は思います。
言葉はそれをしゃべった人や、状況、時間、そして文化や習慣なども含めて総合的に相手に伝えられるものだと思うからです。
laterのように日常で良く使われる簡単な英語こそ、むしろ、英語は日本語に訳して理解しない方がいいのかなと思います。
そのために具体的には、英和辞書を見るときに、訳語よりもその英語が使われている例文をたくさん読むことです。例文には状況も一緒に書かれているので、具体的な使い方が分かります。
とくに”later”のように簡単な単語ほど、日本語の訳に頼らず、例文をたくさん読むことでその言葉をどうつかうのかを英語のまま学んでいくといいと思います。
これは上級者向けですが、類語辞典(thesaurus)と、英語辞典(English Dictonary)、つまり英米人の国語辞典を見るといいですよ。英語を英語のまま理解することができます。
もう一つ、言語が違う者同士でコミュニケーションするときに大事なことがあると気がつきました。
それは言葉が違うために相手のことをよく理解できなくても、相手は”いい人だ、素晴らしい”と思いながら接していくことです。
何故なら、私はその後彼女のことを知っていくうちに、彼女はとても気配りのきく優しい方ということがわかりました。あのときは「私のことをもっと知りたいけど今は時間がないからまた後日話したい」という気持ちをこめてlaterって言ったんじゃないかなと思えました。
まとめ
最後に、”later”の使用例をご紹介しておきます。
相手や状況によっては大きな誤解を生むので、いずれも「すぐに」というよりは、「またいつか」というような意味合いがあると思っておいた方がいいですよ。
“I’ll see you later.” 「また(いつか)お会いしましょう。」
“I’ll talk to you later.” 「また(いつか)お話ししましょう。」
でも、もし、あなたが相手の方と”すぐにでも会いたい”って思ったら、
“When do we see each other again?” とか
“Why don’t we decide the date now?” なんて言ってもいいかも。
日本語では言えない大胆なことも言えちゃうのが英語の醍醐味ですよ。